ある日の美術館

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ある絵画が見たくて、美術館にいた。すると、風景画の前で一人の男が悲しそうな顔をして佇んでいる。
「どうしました?」
「窓が閉まっているのだ」
その絵は、美しい色彩の花や木々に囲まれた家が描かれていて、窓は確かに全て閉ざされていた。
「では様子を見てきましょう」
私は絵画の中へ入って行った。花をかき分け、家に入るとベッドに一人の美しい女性が寝ている。
「どうしました」
「調子を崩して少し長く寝ていたの。水をいただけるかしら」
彼女は美味しそうに水を飲み干し
「もう大丈夫」
と笑った。そうしてベッドから起き上がると、全ての部屋の窓を開け放した。家の中に光が差し込む。絵画の前で先程の男が小躍りしていた。
私は安堵して絵画から抜け出すと、目的の絵画の前に立った。
『接吻』これだ。
「おい、この絵には入るな。誰にも邪魔させない、至高の一瞬だ」
先程の男が不器用にウインクし、満足顔で絵の中に消えた。
その他
公開:18/07/14 13:08
更新:18/08/25 00:17

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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