木々に囲まれた空

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「私はあの自由な雲になりたいな」
「君が雲になるのなら、僕は空になるよ」
「それならいつも一緒だね」
草原の上で彼女は笑って答えた。

季節が一回りした夏、彼女は目を赤くはらせて男の横に座っていた。
「父さんが亡くなったから、私、しばらく街で働くことになったの」
「君が帰って来るまでいつまでも待つよ」

彼女が街へ移ってから5年後、男は小さいものの自分の家を持てるようになっていた。初めて手にした家の色は、あの日、彼女と見た空の青色にすることにした。

それから何十回も季節が変わった。
「ねえ、ママ、なんであそこの家だけ森になっているの?」
「あそこは変なおじいさんが独りで住んでいるのよ。危ないから近寄ったら駄目だからね」

木々に囲まれた家の中で、誰にも看取られずに老人は息を引き取った。青い家は年月を経て色褪せ水色へと変わっていたが、あの日、彼女と見た景色だけは、今もなおそのままだった。
その他
公開:18/07/15 21:17
更新:18/08/26 13:24
クリムト 名作絵画SSコンテスト 北オーストリアの農家

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