色彩のハイ

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そこには古びた家があった。
一軒の、青い壁の家が建っていた。
開け放たれたカーテンは朽ち果て破れ、もはや影除けの機能も果たしてない。中には一人、老人が住んでいた。誰の話も聞いたりしない、煙たがれ屋の頑固者だ。だけどこの時ばかりは誰もが老人に懇願した。
『一緒に逃げよう。ここは終わりだ』と。もうすぐ死の灰が降る。全てを殺す浄化の灰だ。だが老人はこの時も……しかしこの時ばかりは、優しく断った。
「死ぬならどこでも同じだ」
愛した故郷はどこまでも輝いて、うるさい連中さえもステンドグラスの夢の中。若者の涙がぼやけ、遠ざかる。
さあ、花火が上がる。全てを埋め尽くす死の灰が。そんな時も植物は穏やかに、切り落とされる時を待つのと同じように静かで、風さえも歌を歌う。
「なんだ、灰色だなんて誰が決めた」
白が降る。黄色が降る。赤色が降る。鮮やかなピクセルのような死の粉が、老人の視界に思い出を彩った。
その他
公開:18/07/15 17:02
更新:18/08/31 19:31
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風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
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『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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