6
71
「私、こんな家に住みたい」
夫の度重なるDVから逃げ出し、治療を開始して2年。彼女はようやく明るい絵の具を用いて色を塗り始めた。閉ざされた陰湿な空き家に黄色や白の点が穿たれ、緑や赤といった彩り鮮やかな色彩が溢れ出した。それはこのシェルターに飛び込んできた雨の日の彼女からは考えられない、希望や輝きに満ちた生命力だった。
「これは花かい?」
「木漏れ日よ。暗がりから光が差し込むの」
奥行きの感じられる、惹きこまれるほどの才覚だ。暴力と洗脳に満ちた彼女の辛い経験が花開いていくのを、私は医者として展覧者として感動していた。
「なあ、これは何の木かな?」
「桜よ」
「この窓に映り込んでいるのは?」
「春の植物よ!」
「窓際の子どもは、未来の君の子かな?」
彼女は、さっと振り向いた。
「私、人なんか描いてません。誰も描いてません」
凍てついた表情。狂気と憤怒の眼差し。でも、確かに窓際に赤い服の……。
夫の度重なるDVから逃げ出し、治療を開始して2年。彼女はようやく明るい絵の具を用いて色を塗り始めた。閉ざされた陰湿な空き家に黄色や白の点が穿たれ、緑や赤といった彩り鮮やかな色彩が溢れ出した。それはこのシェルターに飛び込んできた雨の日の彼女からは考えられない、希望や輝きに満ちた生命力だった。
「これは花かい?」
「木漏れ日よ。暗がりから光が差し込むの」
奥行きの感じられる、惹きこまれるほどの才覚だ。暴力と洗脳に満ちた彼女の辛い経験が花開いていくのを、私は医者として展覧者として感動していた。
「なあ、これは何の木かな?」
「桜よ」
「この窓に映り込んでいるのは?」
「春の植物よ!」
「窓際の子どもは、未来の君の子かな?」
彼女は、さっと振り向いた。
「私、人なんか描いてません。誰も描いてません」
凍てついた表情。狂気と憤怒の眼差し。でも、確かに窓際に赤い服の……。
ホラー
公開:18/07/15 16:38
更新:18/08/31 19:36
更新:18/08/31 19:36
コンテストに参加
400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。
無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz
『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。
写真は全て自前でやっています(笑)
こちらで写真を紹介、ハガキにと販売しております!
https://minne.com/@sakoyama0705 - ハンドメイドマーケットminne(ミンネ)
ログインするとコメントを投稿できます