花のなまえ
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「あれは、なんという花だろうね」
頭の上で声がしたので見上げると、口髭の立派な老紳士が、庭の遠くを眺めていた。
私は欄干を磨く手を休めて、「どちらの花でしょう」と尋ねた。緑葉の生け垣は数あれど、花弁は一輪も見当たらない。
「ほら、あの青い花だよ」と指差してくれる方を探すのだが、どんなに目を凝らしても、やはり見つからない。
紳士はおや、と眉を上げると
「年寄りだけに見える花かな」と朗らかに笑み、「邪魔してすまなかったね。失礼」と立ち去った。
優美な背姿を見送っていると、いつの間にか傍らに奥様がいらした。
「素敵な方でしょう。何をお話したの」
老紳士との会話の内容を伝えると、奥様は静かに目を見張った。
「夫も…亡くなる前日私に言ったのよ。庭の青い花を部屋に生けてくれと。でも、いくら探しても、そんな花はどこにも咲いていなかったの」
奥様の大切な御友人の訃報が届いたのは、翌日の黄昏時だった。
頭の上で声がしたので見上げると、口髭の立派な老紳士が、庭の遠くを眺めていた。
私は欄干を磨く手を休めて、「どちらの花でしょう」と尋ねた。緑葉の生け垣は数あれど、花弁は一輪も見当たらない。
「ほら、あの青い花だよ」と指差してくれる方を探すのだが、どんなに目を凝らしても、やはり見つからない。
紳士はおや、と眉を上げると
「年寄りだけに見える花かな」と朗らかに笑み、「邪魔してすまなかったね。失礼」と立ち去った。
優美な背姿を見送っていると、いつの間にか傍らに奥様がいらした。
「素敵な方でしょう。何をお話したの」
老紳士との会話の内容を伝えると、奥様は静かに目を見張った。
「夫も…亡くなる前日私に言ったのよ。庭の青い花を部屋に生けてくれと。でも、いくら探しても、そんな花はどこにも咲いていなかったの」
奥様の大切な御友人の訃報が届いたのは、翌日の黄昏時だった。
ファンタジー
公開:18/07/15 07:55
読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)
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