記憶の取引

いらっしゃい。
思い詰めて、一体どうしたんだ。なるほど、取引ね。悪魔との取引は代償がでかい、わかっているね？
亡くなった奥さんとの記憶を消したいのか。落ち込むなよ、よくある頼みだ。哀しみが愛に勝るのは、決して君が弱いからじゃない。
では取引を始めよう。
まず僕は君の記憶を貰い、君は代償にガラクタの記憶を受け取る。内容は先に分からない。悪魔の契約だからね。
OK？じゃ、取引成立。次の瞬間には全て忘れるよ。
いち、に、さん。
笑顔が戻ったね、何よりだ。
不思議な記憶がある？ああ、例のガラクタさ。
よければ聞かせてくれよ。
ふむ、美しい女性の記憶。愛する人に出会い、穏やかな日々。突然の病。人生の全ては愛と悟り、死んでいったのか…
全然知らない人？そりゃそうだ。
とにかく、死者の記憶は処分に困るから助かったよ。やつらは中々消しにくいもんで。
おや、君、なぜ泣いている…