BAR「art dive」

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ふらりと立ち寄ったバーには沢山の名画が並んでいた。バーテンダーに案内されて私はカウンターに座った。
「何か気分転換になるものを」
バーテンダーは「では」と軽く頷き、流れるような手捌きでいくつかの瓶を傾けた。ほどなく私の前に澄んだグリーンのカクテルが置かれた。
「クリムトの『北オーストリアの農家』です」
淡い炭酸が小さな花を、底のブルーは森の奥に隠れた家を思わせた。
グラスを傾け軽く唇を濡らすと、絵画の中に飛び込んだように一瞬で視界が変わった。深い森だ。ミントの爽快感とレモンの清涼感が心地よい風を運び、ジンのほろ苦さが大樹から射し込む木漏れ日となり草花を揺らした。グラスの底で揺れるブルーキュラソーが渇望するように氷の窓をノックして光の挿す方に手を伸ばす。私は誘われるまま一口でカクテルを飲み干した。

あいつが隣にいない。
そんな夜も、悪くないと思える。

私は束の間の森の静寂に酔いしれた。
ファンタジー
公開:18/07/14 23:37
更新:18/07/20 08:46
ミントリキュール15ml ドライジン30ml レモンスカッシュ適量 ブルーキュラソー少量

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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