静かに燃える家

　ああ、緑が萌えている。私は丘の上に立ち、遠くに建つその家を眺めている。木々の濃緑が屋根を覆い隠し、色鮮やかなポピーが四面を埋め尽くす。

　鳥の羽ばたく音が響いて、ハッと私の脳裏を死人たちが横切った。
　そうだ。彼らの顔を私は決して忘れないだろう。ここから見えるあの家の景色は、梢と花々に遮られて穏やかな顔しか見せないけれど、近くに寄ればまざまざと傷跡を目にすることとなる。目を瞑れば、今でも明瞭に思い出すことができるのだ。

　――ああ、炎が燃えていた。私は丘の上に立ち、遠くに建つその家を眺めていた。炎々と猛火が屋根を覆い隠し、色鮮やかなポピーが灯影によって単色に染められていた。

　いつか、ここから見える景色を誰かが美しいと感じて絵に描くようなことがあるのかもしれない。それほどまでにあの家はその傷跡を見事に隠していた。まるで平穏な日々がひそかに終わりを迎えたかのように、静かに燃えていた。