医者の卵

世界は急激な医療人不足に陥っている。いま研究者たる私にできるのは、優秀な医者の卵を作り上げることだ。
優秀な医者と優秀な医者を掛け合わせたら、医者の卵が出来あがる。それは当然のことだ。雌の医者を卵生に作り変えるのはそう難しくなかった。
難しいのは、優秀な医者の卵を作ることだ。
突然変異か、それとも種が悪いのか、脳がみっちりと詰まった優秀な卵はうまく作れない。
卵は育つものであり、育つために生まれ、育つために目覚める。つまり出来損ないの卵は、この世に必要ない。
今回は失敗だ。開発中である医者の卵の中身をすべて廃棄した。人間になる前の中身は可燃ごみとして扱えるため、気が楽だ。
そして幸いなことに、卵の殻には再利用方法がある。世界各国から捕らえて飼育している優秀な医者たちに食事として与えるのだ。そうすることで、また新たな医者の卵が産まれる。
正しく育つ医者の卵の開発が成功するまで、私は諦めない。