花瓶の生花

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「ここのところ毎日来てくれますね」
そう言って控えめに微笑む店主を一瞥してから、俺は元のところへ視線を戻す。
小さな喫茶店の一番奥。そこに座って、俺は花瓶に挿された花を眺めていた。瑞々しく艶のあるその一輪挿しはこの寂れた喫茶店にあって異質だ。
「……この花が枯れるところが見たいんだ」
「それは残念」
「なに?」
「この花は特殊な技術が施されていましてね。枯れないんです」
「造花か?」
「生花ですよ。ドライフラワーでもありません。確かめてみたければ、触っていただいても構いませんよ」
「いい。見ればわかる。……邪魔したな」
お代を置いて、席を立つ。
何が施されていようと、どんな死にぞこないの花だろうと、いつかは朽ちる。それを俺はこの目で見たい。
「またどうぞ」



「毎日見ていて本当に気がつかないとは……」
男が出ていった後の店で一人、店主はぼそりと呟いて、一輪挿しへ新しい花を挿し直した。
その他
公開:18/07/06 07:03

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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