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「鏡に魂を奪われるって話知ってる?」
「なにそれ?」
メイク中の私の後ろから声がした。
鏡越しに見ると彼が楽しそうに微笑みを浮かべている。
彼は時々おかしな話をする。今回もそれだ。
「鏡の中の自分は自分そっくりに見えても本当は違う。普通の鏡の反射率って90%も無いからね。反射しなかった10%の中のほんの少しだけ、気付かないうちに鏡に魂を抜かれているんだ。だからずっと鏡を見ていると鏡に魂を全て奪われる。そして自分っていう存在を乗っ取られてしまうんだ」
「…私のメイクの時間が長いって言いたいの?あなただって昔は鏡の前でずーっと前髪をいじっていたじゃない」
「ははは、ごめん、冗談だよ」
彼は笑って、いつものように左手で私の頭を撫でる。
私は彼のこの手が大好きだ。
大きくて、暖かくて、そして優しい。

…あれ?

そう言えば、彼はいつから右手じゃなく、左手で私の頭を撫でるようになったんだろう…?
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