火夫 - stoker -

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男は額に流れる大粒の汗を拭うことなく懸命にシャベルを操っていた。
石炭ではない、緑とも青とも黄色ともとれる鈍く光る石を掬って火室にくべる。
音もなく燐光がはぜ小石は次々に花火みたいにはじけて炎に溶けた。
「交代だ」
もう一人の男が言った。
その男の名前は知らない。知っているのは自分もその男も同じ火夫ということだけだ。

白鳥駅で停車中、俺たちは燃料石の入った麻袋を機関室に積み込んでいた。
星たちがひときわ輝くこの日。銀河の河原の小石は特別な光を纏いこの鉄道の燃料となる。
20分ほどの停車時間を楽しもうと客たちが客車から降りている。
少年が二人、改札をくぐり走って行くのが見えた。きれいな顔をした少年たち。
俺はポケットから擦り切れた一枚の写真を取り出した。
写真の中で女性と小さな男の子が笑っている。
どうやら今年も乗っていないようだ。
「いつか会えるさ」男が言った。
「ああ」と俺は答えた。
ファンタジー
公開:18/07/04 12:10
更新:18/07/16 07:40

杉野圭志

元・松山帖句です。

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