首輪

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犬のいない、首輪の付いたリードを引き摺って歩いている爺さんがいた。犬が首輪から抜けて逃げてしまったことに、気付いていないのだろうか。
「あの。犬がいませんが」
爺さんは振り返ると、
「何を言ってるのですか。犬ならいますよ。ここに」
と言った。しまったイカれた爺さんだったかと思い、離れようとすると、
「ほら、見えませんか。ここに」
と首輪を指した。何も見えない。が、首輪が僅かに動いたような気がした。
「ああ、それでは見えませんよ、あなた。首輪を覗いてごらんなさい。こうして」
爺さんは首輪を手にして、首輪の中を覗き込むような仕草をし、首輪を渡した。私は少し不気味に思いながら、言われるままに首輪を覗いた。すると、首輪は生き物のように跳ね、あっという間に私の首にはまった。
「ほら、いるじゃないですか」
爺さんが嬉しそうに笑い。犬の姿になった私は、ただ爺さんを見上げ、吠えるしかなかった。
その他
公開:18/07/01 08:26

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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