泣き枕

その寝具メーカーは、ユニークな枕を開発した。

「泣き枕」

抱き枕をヒントに考案された。従来の抱き枕と形状は変わらないが、内部のセンサーが人肌の温熱で状態を感知し、神秘的な音色を奏でる。それはオルゴールのように優しく、水琴窟よりも深く心に沁みて、やがて涙をいざなうのだ。
ただ眠るための枕という概念を変えた名品なのだ。
枕は飛ぶように売れた。あらゆる悲しみ、失望、失恋、孤独、別れの涙、この枕はすべてを吸収し、癒してくれるのだった。

この噂は、全米にも広がった。そして世界中がこの枕を必要とした。
しかし、一番泣きたいのは、ワーナーやユニバーサルの映画会社だった。映画館までわざわざ涙を求めに行く必要がなくなってきたからである。全米が泣かなくなった。とマスコミは愚弄した。

泣き枕はこの乱世な時代に必然的に現れたのかもしれない。抱き枕は、枕を抱くが、泣き枕は、心を抱いてくれるのだから。