時計塔の眠る夜

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ある田舎町の丘の上に、長く町民に愛される時計塔があった。
その時計塔は町のシンボルで、過疎化が進む寂れた町の中にあってなお、町民の誇りだった。
しかしその肌は、長年風雨に晒され続けた影響で、所々崩れてしまっていた。町は悩んだ末、やむなく取り壊しを決めた。
町民はその決定に悲しみ、補強や修繕での対応を求めたが、費用の面からもそれは難しく、決定は覆らなかった。
取り壊し当日、時計塔の前にはたくさんの町民が集まった。けれど朽ちかけた時計は別れの時を待たずして止まったまま、その針はネジを回しても、動くことはなかった。
解体が始まり重機が爪を立てると、呆気なく塔は崩れ落ちた。小高い丘の上には、塔の跡だけが残った。

その夜。
シンボルタワーの消えた町に、季節外れの雪が降った。
町の中ではもう聞こえないはずの、けれど聞き慣れた鐘の音が響き、その音に重なるように、白い雪が辺り一面をまっさらに覆っていた。
その他
公開:18/06/27 23:56

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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