水色の街

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智樹の故郷の話はよく聞いていた。
シャウエンともジョードプルとも違う、水色の街。
例えるならば、水槽の向こう側を覗きこんだ世界だと彼は語る。

その街に、初めて二人で訪れる。
海岸沿いのバス停に降り立つと、視界はもう、青一色だった。

砂浜に、二人の轍を描いて歩く。

…ねえ、優香。奇跡だ
…え?
…物心ついた時から、僕の街は例外なく水色だった。庭のトマトも、7色クレパスも、僕の手も身体も。でも
…でも?
…優香は染まっていない。君だけ、黄金色なんだ。神様みたいに

智樹が私の肩にふれ、そっと両腕を回す。彼の重力を感じると、私達の体温はじわりと溶け合った。

…ごめん優香。今日は、先に帰って
…なぜ?
…君を水色に染めたくないから




揺れるバスで、ふとまどろみから蘇る。そろそろ目的の海岸が見える頃だった。
3年前のお盆に、海で逝った智樹への花束を抱え直し、私は再び目を閉じた。
その他
公開:18/06/28 22:34
更新:18/06/29 00:45

あおい( 北海道 )

結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。

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