父の秘密

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テレビで芸人が、車で、旅する番組を見ていたとき、お風呂が沸くのを待っていた父が咳払いして、私に呼びかけた。
「いい機会だから、1つ言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」
真剣な声音に私は緊張した。
「何? 改まって」
「父さん、実は信号が読めない」
「どういうこと?」
「信号っていろんな色あるだろう。何で何していいかわからない」
「今までどうやって生活してきたのよ?」
「車なんて運転できなくていいし。みんなが進んだら進む。止まったら止まる。それで十分」
「誰もいない時は?」
「それは絶対安全だろう」
「幼稚園で習わなかった?」
「父さん行ってない。小学校も機会が無くてな」
なんだそんなことか。
「バカね、とりあえず『青は進む』って覚えておけばいいのよ」
父が何度か私の言葉を復唱した。ちょうどお風呂の湧いたメロディーが鳴った。テレビでは青信号が映った。父は満足げに立ち上がって歩き出した。
その他
公開:18/06/28 22:10

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