或る兵士の話

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これはもう何十年も昔の話だ。
とある国と国の戦争に、一人の男が徴兵された。
男は他人より優れた頭脳や武術は持ち合わせていない、所謂何処にでもいるような人間だった。だが、男は厳しい訓練や環境の中で弱音を吐かず、戦地で一人、また一人と戦友が生命の灯火を消しても、涙一つ流すことはなかった。
やがて戦争は両国の崩壊によって終結したが、男の周りに生き残った者は誰一人いなかった。
灰になった友は"国の為に名誉の死を遂げた勇者"として讃えられたが、生きて帰った男には何も与えられなかった。
伽藍堂のような男が焼け崩れた街を歩いていると、前からパタパタと足音が近づいてきた。
手を振る影に、男の瞳から雫が落ちた。
兵士として生きた男の、最初で最後の涙だった。

「.....ねえ、おじいちゃん。その兵士は何で泣いたの?」
「そうだね...彼はただ、誰かにおかえりなさい、と、言ってほしかったんだろうね」
その他
公開:18/06/26 22:05

あべかわ

思いついた時にぼやぼや書いてます

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