ハートマークの隠し味

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生まれてから二十五年。
私は明日、住み慣れた実家を離れる。
結婚には不安もあったけど、仲の良い両親をずっと見てきた私には、ワクワクの方が強かった。
「ついに最後の日ね」
感慨深げに微笑むお母さんの横に並んで、嫁入り前最後の手料理を習う。
「大丈夫。これでずっとお父さんもゾッコンなんだから。何物にも勝る、とっておきの隠し味よ」
言いながらお母さんは、手でハートマークを作ってみせる。
月並みではあるけれど、料理を美味しくする一番の隠し味は決まってる。
「はい、あとは愛情たーっぷり注げば出来上がり」
「またまた。もう愛情たっぷり込めながら作ったでしょ?」
冗談とばかりに笑い飛ばす私をポカンとした顔で見ていたお母さんは、違う違うと笑って棚の奥から大きなボトルを取り出した。
「売ってるのよ。お徳用サイズが特売でニーキュッパ!」
笑顔で振り返るお母さんの手には、『愛情』と大きく書かれたボトルがあった。
その他
公開:18/06/24 18:19
更新:18/06/24 20:55
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ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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