紫陽花の色

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「最初はみんな淡い緑色。そこから土の成分によって色んな色に変わっていくのよ」
揃いの傘をさして歩いた雨の通学路、植物が大好きだった君に聞いた紫陽花の話だ。

あれから数十年。
君が植物の研究で大成功し、世界的地位を築いたということを新聞で知った。
植物博士になるという夢を叶え、働く女性の憧れとして輝く君は、今の私にはあまりにも眩しすぎた。

日課の散歩に出る。今日も外は雨。
私の足は無意識にあの日の通学路へ向かっていた。
紫陽花の彩とあの日の君が重なり、胸が苦しい。
しかし。
ここ数十年間意識していなかったが、この通学路の紫陽花はこんなに赤紫色ばかりだっただろうか。
「土壌のpHによって一度は様々に色を変える紫陽花だけど、花の老化が進むと再び同じ色に変わっていくのよ」
はっとして振り向いた。
「貴女まだその傘使っていたのね」

雨の中、赤紫色の傘が二本、寄り添うように咲き誇っていた。
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公開:18/06/25 15:58
更新:21/07/15 18:44

TAMAUSA825( 東京と神奈川 )

登場することが趣味です。

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