空にある海

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親父の命があと数日だと、故郷の母から連絡があった。しかし、俺は自宅にこもり、パソコンのキーボードを叩き続けた。

病院にかけつけると親父の意識は、まだはっきりとしていた。安堵の溜息をつき話しかけると、背を向けて黙りこんだ。無理もない、漁師になるのが嫌で、家を飛び出して以来なのだから。
「親父。海に連れて行ってやるよ」
「……ふざけるな」
親父にそんな力はもうない。

親父は故郷の海を見ていた。
「海だ!わしの漁船だ!」
子供のように燥ぐ親父に、母は手を握り嗚咽していた。
俺と親父は、病室の窓から空を見上げていた。
「おまえと、あの海で語りたかった」
「親不孝だったな、俺」
「もういい。仕事、頑張れよ」

親父は、VRゴーグルを外し、微笑んだ。
故郷の海を仮想現実化させたのだ。

親父は他界した。

俺は故郷に帰り、波にたゆたう親父の漁船を眺めていた。
あの逞しかった背中を浮かべながら……。
その他
公開:18/06/23 20:51
更新:18/12/10 01:55
家族 父親

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
最近はスクーのお題からの作品を楽しく書かせていただいてます。お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。

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