わがままな手

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前方から歩いてくる男に、どう見ても手が付いていない。その男を犬のようなものが2匹追いかけてくる。否、それは太く逞しい男の手であった。2本の手が男を追いかけている。
「あの、後ろから追いかけていますよ。あれはあなたの手じゃないでしょうか」
私は思わず話しかけた。
「あれは捨ててきたんですよ」
男はチラリと後ろを見て言った。
「最近あまりにも言うことを聞かないので、持て余していたんです。頭を掻こうとすれば尻を掻くし、歯ブラシを鼻の穴に突っ込むし、この間なんて寝ている時に殴られましたから」
「まあ!」
「あなたも気を付けなさい」
2本の手はやっと男に追いつくと、どこからかおかしな鳴き声を上げた。すると、その声に反応するように、私の体から2本の手が外れ、男の手と仲良くじゃれ合いながら、楽しそうに走り去っていった。

「全くお手上げだ!」
男は思わず手を上げようとし、決まり悪そうに笑った。
その他
公開:18/06/21 15:41
更新:18/10/16 09:26

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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