サウザンクロス

14
105

すぐに夢だとわかった。
小さな黄色の電灯、青い天鵞絨の腰かけ。
車室の中のそれらは本で読んだ通りだった。
目の前に座る祖父が言った。
「これを逃すと次の便は来年の七夕だったから」

がたごと

子どもの時、祖父と一緒に読んだ「銀河鉄道の夜」。戦争のことは一切語らない祖父だったが、本の中に南十字星が出てくると戦地で自分も見たと言った。

がたごと

祖父と昔話に花を咲かせた。母子家庭だったから釣りを教えてくれたのもプールに連れて行ってくれたのも祖父だった。

がたごと

銀いろの空。水素よりも透明な天の川。燐光がはねた。
「あれが南十字星だ」
祖父が指を指した。星は教会の十字架みたいにそこにあってパイプオルガンの音が聞こえた、ような気がした。
「これであいつらに会える」
微笑む祖父を白い光が包んだ。

朝だった。
携帯に何度も母から着信が入っていた。
僕は故郷に向かう列車に飛び乗った。
ファンタジー
公開:18/06/22 12:00
更新:18/07/04 23:50

杉野圭志

元・松山帖句です。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容