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その家は人知れず森の奥深くにあった。
稀にそこへ辿り着く人間は景色の素晴らしさにきまって息を呑み、時の流れを忘れ佇む。家のそばに美しい女がいるのに気付くと、住人ですかと声をかける。
「花の世話はあなたが?」
「時々」
「生命の息吹を感じますね」
「窓からの景色も素敵なの」女は続ける。「家で一杯、摘みたてのハーブティーでもいかが」
「ぜひ……」

ある日一人の男がやってきた。すげえと呟くも歩みは止めない。
「派手な赤もあれば映えるだろうな。生命の力強さみたいなさ」
左手にはいろんな草花が握られていた。病に伏せて顔色を失っていく妻のため集めた、鮮やかな色の花束だ。
もしすぐに立ち去っていなければ、きっと彼は望むような赤を女の家で目にしただろう。
彼の口からごぼりとこぼれるその色を、女の笑い声を聞きながら。

また誰かが家に誘われる。彼らのその後を知る者はいない。女と、女に寄り添う森の他には。
ホラー
公開:18/08/31 21:32
更新:18/08/31 23:58
#花

みなみ

はじめました。はじめまして。

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