ある国のある地方で聞いた話

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この村でも近隣の他の村と同じ様に、男の子が産まれるとその子に種を一粒選ばせて、長老や村の長が占いや御託宣などで決まつた場所に埋める風習がある。
勿論云ふ迄も無くこれは家の種で、普通子供たちが成人になり嫁を貰う頃に丁度住み良い大きさに育つ。
この家の実は不思議なもので充分に熟さないまま収穫して仕舞ふと扉や窓も開かず、どうやつても中に入れないのだ。

さて、この家の種がどうやつてできるかと云ふと、どの村にも必ず何人かは嫁を貰へなかつたり、子供ができる前に離婚、或いは死別する者が一人二人はをり、さう云つた者が一人の儘死を迎へたり、場合に寄つては何処か遠く余所へ行つて仕舞ふと、主を失つた家は途端に追熟してやがて腐つて仕舞ふ。
さうして家が完全に腐りきると、それまで何処に在つたのか、種が幾つか残つてゐる、と云ふことである。

不思議なもので晩年まで添ひ遂げた夫婦や子供の居た家では種が残らないさうだ。
ファンタジー
公開:18/08/31 19:50

田中目八( 大阪 )

1978~。西成郡勝間村の人。単家、布衣の人。短時間労働者。即興演奏者。
俳句雑誌『奎』同人。
2022年イグBFC3優勝(同着)
https://twitter.com/ConchHailuo

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