屍は裸足で歩く

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ワイシャツとネクタイと革靴と。そんな現実から逃げるように美術館に立ち寄った。しかし知った人間などいないようなこの場所でさえ、僕は人目を気にかけて興味のない絵の前で立ち止まり、深く魅入るフリをした。

時間をかけて館内を回っていると閉館の放送が流れ、展示室にいた人々が次第に減っていく。僕は最後の1人にならないよう、足早に美術館を出た。

奇妙なことに、外では人々がみな裸足で歩いていた。熱い地面の上をぴょんぴょんぺたぺたと跳ねている。
困惑し、僕は先を歩く男にたずねた。

「どうして裸足なのです」
「君はあの絵を見なかったのか? 農家を描いた、あの色彩あふれる絵さ。あんな絵を見たら裸足で歩きたくなるだろう?」
周囲を見回した。靴を履いているのは僕だけだった。僕は恐るおそる革靴の紐をほどいて靴下を脱ぎ、男のうしろを歩いた。

足元のアスファルトでセミが死に、人々が放り投げた靴は芝生に落ちていた。
その他
公開:18/08/31 15:55
更新:18/08/31 16:17

遠火

はじめまして、よろしくお願いします。

投稿作品のアイキャッチ画像うまく使えませんでした。難しい。次は頑張ります。

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