忘れられた庭で

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鏡の前で髪をかきあげ、右耳についていたイヤリングがないことに気がついた。どこで落としたのだろう。駅で確認したときにはあったのに。
私は来た道を引き返し、黄色い花の形をしたイヤリングを探した。道を往復し、駅や交番を訪ねた。しかし私の失くし物は見つからなかった。

雑貨屋のガラスに映る耳を確かめる。ああ、私の花がない。あの花はもうここには帰ってこない。
私はコンクリートを歩く人間に混ざって、この悲しみを紛らわせようとした。しかし私の悲しみを受け取ってくれる人はいなかった。

毎日つけていたあの花が、春を粒にした大切なイヤリングがこの汚い道路に投げ出されて、きっと誰かに踏みつけられてしまった。
こんな街ではなくて、せめてどこか、たとえば花が咲き誇るような美しい庭に落ちていればいいのに。
その他
公開:18/08/31 15:52
更新:18/08/31 16:16

遠火

はじめまして、よろしくお願いします。

投稿作品のアイキャッチ画像うまく使えませんでした。難しい。次は頑張ります。

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