魔術師を閉じた部屋

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6畳ほどの小さな部屋いっぱいに円が描かれている。
幾何学模様は月の光を受け淡く発光しているようにも見えた。
(そうでなくては困る)
なにせこれを描いたチョークは、月光を18日間浴びせて作った特別製なのだ。
複雑な幾何学模様はもう何度も見直した。
後は外側の円端を閉じきるだけだ。
チョークを握る手が汗で滑る。
指先はもう何年も白いままだった。教授に言われた言葉がぐるぐると頭を反芻する。
「君の知識や思考は本物だ。研究助手としてやっていけばいい」
つまり、これで何もなければ魔術師の才は無かったものとして諦めろということだ。

もう後は無い。
フッと息を吐きだすと同時に円を繋ぐ。
あとはもう、願うことしかできない。

雲が月を覆い隠しても、円は静かに床に在るだけだった。
無理だったのだ。僕は賭けに負けた。
淡く光る円に触れ、暫くして部屋を出た。
此処にはもう何もない。
初めから何も無かったのだ。
ファンタジー
公開:18/09/01 01:13

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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