息苦しく、咲く

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 何故私のような瀟洒な建物が、このような鬱蒼とした森の中に建てられたのだろうか。青青とした瑞々しい外壁が、この場所にはあまりにも不釣り合いで、私は気恥ずかしさを覚える。朝方にだけ差し込む僅かな陽光が、私の置かれた状況との対比を在り在りと見せつけ、憂鬱な日々の始まりを報せる。風に靡き聞こえてくる木々の囀りは、私の耳にはまるで嘲笑だ。
 私の中で暮らす夫婦は、質素な生活を好み、植物のように緩やかな時間を過ごしている。退屈が私を蝕んでいく。感覚が鈍くなっていく。
 それでも年を重ねるうちに、徐々に変化は訪れた。大切な伴侶を失った彼女は、彼と離れることはなく、私の中に秘密の楽園を築いた。日々朽ちていく彼と、正気を失っていく彼女。私はその観察に勤しんだ。
 私は秘密を包み込み、風景へと溶け込んでいく。
 いつか訪れる、誰かを待ち焦がれながら。
ホラー
公開:18/08/31 23:53

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