木漏れ日の少女

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 あの白い家はまだそこにあった。
 何年も前の暑い夏。カンバスを手に迷い込んだ森で、妖精を見つけた、と思った。
 亜麻色の髪に透き通った肌。絵のモデルを頼んだ僕に、彼女は顔を赤らめて頷いた。
 何よりもその瞳が僕を魅了した。時には露草の青、時には木漏れ日の緑。くるくると変わる色を掴まえたくて、何度でも絵具を重ねたものだ。
 だが日射しが弱まる頃、その眼差しが翳り始めた。夏が終われば、僕は街へ帰る。学生の僕に彼女を連れていくことなど、出来るはずがない。
 完成した絵を置き、僕は逃げるように森を去った。

 全ては遠い日の思い出だ。
 家に人気はなく、伸びた草が辺りを覆い隠している。
 彼女はどこに行ったのだろう。妖精に相応しく、森に溶けてしまったのか。
 何かに足が躓く。
 下草を掻き分けて、墓石に刻まれた名前に気づく。

 ざわり、と風が鳴る。
 彼女の瞳の青が──緑が、こちらを見ている。
ホラー
公開:18/08/30 22:43

にしおかゆずる

自分のペースででゆるゆると。
昔書いたtwitter小説を転載したりもしています。
 

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