北オーストラリアの農家

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北オーストリアの農家
 元雑誌編集長の友人に「クリムトの『北オートスリア農家』をテーマに短編を募集しているんで応募したいんだが、いいアイデアがうかばなくてね」と、話の接穂に話したところ、友人はしばらく首をひねっていたが、
「そうだ! ぴったりのがある」
 十分ほどのち、奥の書庫から引っ張りだしてきたであろう変色した一枚の原稿用紙のほこりを吹きはらいながら、「戦後すぐに書かれたものだが、未発表だし作者は物故してる。ちょっと手をくわえれば君の名で応募できる。どんなかたちにしろ日の目をみりゃ作者のいい功徳になるさ。だだし、あんまり後味のいい結末じゃない。一度読んでみたら」
『1908年末、点描画風の風景画を携えて突然クリムトの前にあらわれた奇妙な目をした自称画学生は、アドルフ・ヒトラーと名乗った』で始まる短編は、友人がいった以上に後味のわるいものだった。
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公開:18/08/30 11:14

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