君には毒

「パパ、私こんなお家に住みたい」
男は困ってしまいます。男にそんな稼ぎはありません。なので誤魔化すことにしました。
「残念ながらこの家に君は住めないんだ」
「どうして」
「この家は君にとっては毒なんだ」
「わかんないよ」
「家の壁を見てごらん。青いだろう。この塗料は子供にとっては毒なんだ。家の周りの木や、草花もそう。子供にとっては毒で、君はたちまち体を悪くしてしまう」
少女はしばらく考え込んだのち、男にこう言いました。
「ならせめて、お家にお花が欲しいわ」

「ただいま」
「おかえり」
「パパもおかえり」
「ただいま」
「ママー、ただいま」
母親はまだ帰ってきていないようでした。
少女は早速、買ってきたアネモネの植えつけをしたがりますが、時間も遅いので男は断りました。
少女はせめて、早く眠りに就くべきなのです。
この家の毒に蝕まれてしまう前に。
だって、体を悪くしてはいけませんから。