満念筆

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万年筆のインクを買いに出かけた、夏の日の午後。僕は素晴らしい買い物をした。

「いらっしゃいませ」
馴染みの店主が僕に言う。
「こんにちは。今日もインクを買いに来たんです」
「かしこまりました。あ、そうだ、今日、珍しいものが入荷したんですよ」

店主が、持ってきたものは、普通の形をした万年筆だった。
「こちらはですね、“万年筆”ではなく、“満念筆”というものです。満たす、念の筆、と書きます。使用時に文字に書き手の念や感情を込めることができるのです。紙を、書き手の念で満たすことができるのでございます」

これは素晴らしいものだ、と僕はすぐに満念筆を買うことにした。

家に帰ると、すぐにレターセットを取り出し、満念筆で手紙を書いた。

数日後、僕に手紙が届いた。
その手紙は、彼女の想いで満ちていた。

どうやら、僕の“好き”は彼女の心を満たしたみたいだ。
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公開:18/08/28 23:09
更新:18/08/29 10:10
万年筆 満念筆 想い

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人3年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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