額縁屋の恋

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「額装するのはいかがでしょう。不思議と絵がより身近に感じられますよ」額縁屋の提案にゆっくり頷いた女は、やはり美しかった。

 女の恋人は一枚の絵を残して突然に消えた。それは二人で過ごした森の家の絵で、女は恋人の真意が分からないまま、今も同じ場所で暮らし続けていた。
額縁屋には信念がある。人は信じたいものだけを信じて生きている。額縁はその象徴的な道具だ。世界というのは、自分好みの枠を通じて見る者の良いように解釈されていく。
 恋人の絵を、女は信じたい物語に引き込むだろう。だが額縁屋は知っていた。額縁の外はもちろん信じたくない世界。強調されるのは恋人の不在だ。女は耐えられるのか。額縁屋は、それを見てみたい気もするのだった。

 女の家に絵を届けた帰り、額縁屋は振り返り、自分の指でつくった四角い枠を覗き込んだ。あの絵と同じ…と思った次の瞬間、地面から数十羽の蝶がいっせいに舞い上がった。
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公開:18/08/29 22:18

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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