実験台

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「クリムトの北オーストリアの農家です」と俺が答えると、面接官は目を逸らすことなく続けた。「ほかには?」
 壮大な実験だったらしい。テーマは芸術のデータ化。作品はもちろん、付随する情報も含めて全てデータにし、直接人の脳に流し込む。もしも得られる感動が同じなら、世界中の美術館なんて要らない。もっと言えば、作品そのものだって、なくなったって構わない。
 俺は頭の中を探った。ほかには…何もなかった。目を閉じて集中すると、ぼうっとあの日の自転車が現れた。後ろに乗せた彼女。学校を少し離れた場所で落ち合い、海への坂道を下った。ふいに風が来て、振り向こうとしたけど、前だけを見ていて…。
 俺の言葉を聞いて面接官は頭を掻いた。「また一からやり直しだ」
 実験の結果など知ったこっちゃない。でも図書館でクリムトの絵を前にして俺は思う。「間違ってねえと思うけどな」
SF
公開:18/08/27 12:53

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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