予約の後輩くん(9)

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「先輩……」
「水瀬君?」
私を見つけるなり水瀬君はまっすぐ歩み寄ってきて、彼氏だった男が少し前まで座っていた席に、静かに腰を下ろした。
「……あの、最初に謝らせてください。これは横入りになると思います。……すみません」
申し訳なさそうに、けれど曇りのないはっきりとした声で、水瀬君は言う。私はそんな水瀬君に、なんだか安心してしまった。
「さっき、別れ話されたの」
「え……」
私のへらりとした声に反して、水瀬君の顔が強ばる。そんな仕草ひとつも、不思議と私を穏やかな気持ちにしていくのがわかる。
「その帰り際に彼が、店の予約がどうのって言ったんだよね。そうしたら私、そんな場面なのに、水瀬君のこと思い出しちゃってたんだよ」
「え……?」
「なんか正直、今あんまり辛くないんだ。ありがとね、水瀬君」
そう言って私が笑って見せると、なぜか水瀬君が泣き出しそうな顔をするから、私は余計に笑ってしまった。
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公開:18/08/26 21:42
予約の後輩くん →予約の後輩、水瀬くん 通し番号で交互に続きます

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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