そこに残る色

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もう随分長いこと眺めている…。
平日の地方の美術館。入場者はほとんどいない。
ー 体調でも崩したのだろうか…?
学芸員の私は、一枚の絵の前でポツンと佇む老人の様子をさり気なく確認した。
ー 泣いている…!?
「いかがなされましたか?」
私の問いかけに我に返った老人は、「なんて悲しみ絵だ...。死に取り憑かれた私の人生そのものだ…」と、冷たく青い涙を拭った。
「美しい色調に混じる、この不自然な影。幸せの横に潜む死の数々だ…。私の人生も幸せに溢れていた。だが、死が、最愛の妻、兄弟、友人みんなを奪ってしまった…。この絵のように、長い人生には死しか残らない…」
老人はかなりの高齢だった。
「右隅の黄色に輝く部分…、恋人達の『接吻』に見えませんか?」
老人が目を丸くした。
「死だけが残るわけではないのでは…」
私の出すぎた言葉に、老人はクシャッと笑顔を見せた。
目元に残る涙は柔らかな橙色になった。
ファンタジー
公開:18/08/26 17:37
更新:18/08/28 07:50

十六夜博士

ショートショートを中心に、色々投稿しています。
よろしくお願いします。

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