絵の花

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 祖母の葬儀ぶりに実家に帰った。

「壁の絵、変えたの?」

 母は、掃除の片手間に首を振る。

「ううん、ずっと同じ絵だよ」

 はて。私の記憶に残るのは、もっと草木ばかりのどんよりとした絵だったはずだ。

「だってさあ、こんなに花、咲いてた?」

 生前の祖母は、『死んだおじいちゃんのお気に入り』『汚したら化けて出てくる』とぶつぶつ口を尖らせつつ、熱心にこの絵を手入れしていた。

「それねぇ」

 母は雑巾を置き、絵を見上げる。

「おばあちゃんが死んでから、ぽつぽつ咲き始めたの」
「ええ、誰のイタズラ?」
「おばあちゃんじゃない? ほら、おじいちゃんって黄色い花が嫌いだったじゃない」

 言われてみれば、草むらから木の上まで、黄色い花の咲き誇る風景たるや。

「おじいちゃんって何色の花が好きだったっけ?」
「白」
「ふーん」

 目を凝らせば、黄色の隙間に、ぽつりぽつりと白い花。
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公開:18/08/28 03:24

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