差し込む日差しは暖かかった

0
12

 小窓から日の光がわずかに差し込み、瞼の上に自然の温もりを感じる。
 隣にいる兄が動くたびにぎっ、ぎっと床が軋んで音を立てる。
「今日の天気は?」
「快晴だよ」
「景色は?」
「いつもとおんなじ。柚子の木が綺麗な実をつけていて、黄と桃の鮮やかな花が地面いっぱいに咲いてる」
「床、ボロボロだね」
「この家は景色と空気で選んだからね。ちょっと古すぎたかも」
 静かな時間が緩やかに流れていく。
 兄の不規則な呼吸音と、自分の霞れた呼吸音だけが、音として成立していた。
 瞼に当たる日の温もりで、意識がぼんやりとしてくる。
 私はゆっくりと手探りで兄の手を探り当てる。
 兄の手は細くてごつごつしていた。
「お兄ちゃんも……一緒に寝よ」
「お前が寝たら、ね」
 落ち着いた声に安心して、意識を沈める。
 最初から最後まで感じたのは、鉄臭い花の匂いだけだった。
「お前の見た世界はきっと綺麗なんだろうね」
その他
公開:18/08/27 23:08
更新:18/08/29 16:41

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容