臆病の代償

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子供のころ僕等にとって、森の中の池は底なし沼で、人里を離れて住む老婆は魔女だった。

町外れの山道を暫く登った所に建つ一軒家に魔女が住んでいると噂になったのは、僕が十歳の時だ。
もちろん、みんな本気で言ってるわけじゃなく、面白がって盛り上がっていただけだ。
けれど、クラスでいちばん臆病な僕は、怖くて怖くてその家の近くには行けなくなってしまった。
だから、何度誘われても、予定があると言い訳したり仮病を使ったりして、決して近付くことはなかった。

彼女が亡くなったという話を聞いたのは、翌年の夏のことだった。

大人になった僕は、あの頃の愚かな自分を忘れないために、時折この家を訪れる。
今日も久しぶりにここに来て、家の裏手の花に囲まれたお墓に向かって手を合わせ、
自分が孫だと友達にバレるのが怖くて怖くて寄り付かなくなってしまったことを謝っている。
優しかった祖母の笑顔を思い浮かべながら。
その他
公開:18/08/25 21:23
更新:18/08/26 10:54
北オーストリアの農家

けんじゅう

せっかくいろいろなジャンルを用意していただいているので、
一つのテーマ(タイムカプセル)で全ジャンル書いてみようかなぁ、
なんて思う今日この頃。

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