音農家

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「あ、この音好き」
ポピーの花弁に耳を当て、妹がはしゃぐ。
「どれ」
顔を寄せると聞こえたのは、小鳥が語らうようなフルートの調べ。
「ね。姉さんのブーケ、これとマムで良いかな」
僕が抱えるマムの束は、柔らかなピアノ音を奏でている。
「そうしよう」と頷けば、「よし」と笑った妹が、足元のポピーを摘みはじめた。大切な姉の結婚式だ。
「「花農家の役得」」
とふたりで頷き合い、大輪で音の澄んだものを選んでゆく。
花達が歌うのは、東方の首都で演奏された曲だという。世界中から集まる名手達が日々奏でる多彩な旋律が、国土まで染み込み、各地で芽吹く花に宿るのだ。
「できた」
妹が、まあるいブーケに顔を埋めると、風が吹き抜けた。
フルートの高音が響き渡り、余韻とピアノが戯れる。畑中の花達からも音色が溢れ出し、「「わ」」とふたりで声を上げ、同時に笑った。
華やかな合奏に守られて、式は、素晴らしいものになるだろう。
ファンタジー
公開:18/08/24 22:20
更新:18/08/31 08:20

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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