額縁から覗く

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「向こう側に行きたいとは思わない?」
額縁を境にくっきりとわけられた世界。かわるがわる覗き込む人々の顔はどれも皆同じに見えた。
「つまらないものになりたくないの。私はこの世界の一部だから」
青い板張りの外壁を撫ぜる。愛おしむように、ゆっくりと。
その姿は、実にこの世界の管理者として相応しい。
「そう。だから貴女の世界はこんなにも美しいのね」
私がここを訪れたのは本当に偶然だった。私は“私の世界”を出て、“向こう側”を望んだのだ。
「貴女は?」
若草色の瞳の奥には不思議と青色が混じって見える。
「私の世界も美しかったわ。青い小さな家が、木漏れ日の中で輝いて見えた」
「でもそっちを選んだのね」
「そうよ。額縁の向こう側を見てみたくなったの」
いつからそこに存在するのか。きっと本人ですら曖昧だろう。私達はそういう存在なのだ。
少女と全く同じ不思議な色合いの瞳をした女は、絵を背にして歩き出した。
ファンタジー
公開:18/08/26 17:04
更新:18/08/28 22:30

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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