みずいろの迷子

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「すみません、ちょっとごめんなさい」
 大勢の人の群れをかき分け、少年は風景の前に立った。
「あれ? ちがった……」夫人が、声をかける。
「ぼうや、何を探しているの?」
「あの、生まれた家です。七歳まで住んでいました。家族で。でも、色がちがう」夫人は、隣に並ぶ夫と顔を見合わせると、
「そうなの。本当は何色なの?」と訊ねた。
 少年は、生家の壁は真っ白で、庭に咲く花は、たしか虹色だったと答えた。
「にじいろ?」思わず夫人が聞き返すと、いえ、思い違いかも、ボク、記憶が……もう……と、今にも泣きそうな表情を見せた。
「すみません、別の場所を探してみます。ありがとう」浮上する少年へ、夫人はやさしく手を振った。
 波の向こうで、一枚の絵画がゆれている。今は水中で漂う青い家は、上から差し込む淡い光で白く輝き、庭の花を虹色に染めていた。
 少年のあとを追うように、庭の果実がひとつ、上がっていった。
ファンタジー
公開:18/08/26 14:45
更新:18/12/30 14:29
北オーストリアの農家 クリムト コンテスト

二森ちる( 瞑想と妄想の森で )

二森(ふたもり)ちると申します。
人生の節目に、二つ目の名前をつくりました。童話や小説などはこの名で執筆しています。
怪談やホラー系は「鬼頭(きとう)ちる」名義で活動しています。
どうぞよろしく。

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