同じ話

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「おじいちゃんは千代の富士に寄り切られたことがあるんだ」
「前にも聞いた」
ぼくが言っても、おじいちゃんは話をやめない。
おじいちゃんは元力士だ。
パパは「たいしたことのない力士だった」なんて言うけれど、写真で見るおじいちゃんはとてもかっこいい。
おじいちゃんはいつもはじめて話すかのように千代の富士の話をした。三度目くらいまでは平気だったけれど、もう限界。息継ぎや表情まで同じだなんて、おじいちゃんはどうかしていると思う。
ママは演技派だ。
何度でもおじいちゃんの話に笑顔をみせている。
「ねえママ。負けた話をあんなに嬉しそうにするなんて、おじいちゃんはよっぽど千代の富士が好きだったんだね」
「引退前の最後の相手だったの。あれは初場所。全身怪我だらけで、もうやりきったって感じだった」
「いい思い出なんだね」
「そう。身体中に湿布が貼られてて」
「もう春場所はない、でしょ。もういいよ、その話」
公開:18/08/23 13:43
更新:18/10/23 14:10

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