あなたの黄金

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花々の匂いにむせつつ扉を開けた。
静かな叢に佇む古い民家は観光案内所で、「黄金の宿」の銘板もあった。
息を呑んだ。昔、遠い母国で小学校の担任だった女性が仕事をしていた。しみや皺があるが目は変わらない。
「宿をお探しですか?」
先生は僕に気づかぬようだ。
明るく清潔だった先生は、最後の日々、赤いセーターの背に穴があいていて、でも僕は何も言えなかった。
彼女は突然、異国からの画家と駆け落ちし姿を消した。

やり取りのあと、先生はカウンターから出て扉に鍵をかけ床板の一部を外した。その内側の分厚い扉も開けた。
眩い金色に輝く空間に、階段が続いていた。壁には様々な色の石が光る。
「何ですかこれは」
「宿への道です」
二人で下りていくと、周囲から金色の光が先生に集まり彼女の服が赤いセーターに変わった。
「これがあなたの黄金……。戻りましょう」
昔の姿と声で、先生は踵を返した。
黄金の微笑みを浮かべて。
ファンタジー
公開:18/08/23 03:22
更新:18/08/23 03:53
クリムト 北オーストリアの農家

UKITABI

ショートショート初心者です。
作品をたくさん書けるようになりたいです。

「潮目が変わって」(プチコン 海:優秀作)
「七夕サプライズ」(七夕ショートショートコンテスト:入選)
「最高の福利厚生」(働きたい会社 ショートショートコンテスト:入選)
選出いただきました。

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