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 夕方の五時。どこからか「カラスの子」のメロディーが流れてくる。
 坂道は、背伸びをするように立ち並ぶ新興住宅街の間を縫うように這い、やがて公園に突き当たった。
 公園といっても、ブランコと滑り台とシーソーが雑草の中に見え隠れしているような、小さなものだったが、その先はスッパリと断ち切られたかのように中空で、私は、今日たどり着いた町を一望することができた。
 夕日は遠くの山に半ば隠れ、残照に彩られた空の下で、町並みは紫に沈んでいる。岩の下に張り付いている虫のように、瓦屋根が見渡す限り続く町。私が見たかったのは、こんな景色だったのだろうか?
 崖下から闇が吹き上がってきた。辺りは急速に色を失った。
 再び道の方へ目をやると、ステンレスの支柱の上にある時計に気づいた。
 その没個性的な時計に、私は、これまでにないほどの旅愁を感じていた。
その他
公開:18/08/24 10:15

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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