故郷の思い出

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今から三四半世紀もの昔、地球を脱した人類は文化財を持ち出す余裕などなかったらしい。漂流先のこの小さな惑星で、僕の祖父は再現師を生業としていた。
「おじいちゃん、それは何?」
曲がった背中越しに描きかけのキャンバスを覗き込む。
「北オーストリアの農家という絵だよ。この前のモナリザや睡蓮ほど有名ではないが、私はこの風景が懐かしくてね」
差し出されたタブレットには、データ化された完成図が映されている。
「お前にも見せてやりたいよ。地球は本当に美しい星だったんだ。この絵のような景色がどこまでもどこまでも広がって……」
「ねえおじいちゃん、この家の周りに描かれてる緑や黄色のカラフルな点々は何?」
その瞬間、遠くを見つめるように細められていた祖父の目からポロリと雫が落ちた。それからしわくちゃになった顔を手で覆って、肩を震わせている。
初めて見る祖父の涙に、僕は呆然と突っ立っていることしか出来なかった。
SF
公開:18/08/24 01:16

咲川音

小説を書いては新人賞に応募しています。

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