漬物名人

近所のお婆ちゃんは漬物名人。この夏、僕はお婆ちゃんの漬物小屋を見学した。
「これはカカオをミルクとラム酒に漬けたやつ。スパイスはプラリネとレーズン。もうすぐトリュフになるよ」
瓶の中のチョコは丸くなり始めて、すっごくおいしそうだ。
「こっちはスカラベが丸めた蜘蛛の糸を、水あめとレモンソーダに漬けたもの。取り出して天日に干せばふわふわの綿あめになるよ」
「あれはなあに？」
奥の方に僕の背よりも三倍は高い、大きな樽があった。
「ゴジラの卵のピータンさ。三十年前から漬けてるけど、食べごろにはまだ十年はかかるね」
ピータンはちょっと硫黄臭いんだよと言いながら、お婆ちゃんは更に奥へ行く。そこには水族館みたいに大きな水槽があった。中を覗いてみたけど底が見えない。
「地球を塩水に漬けてアク抜きしてるんだよ。天日干しにするにはまだ十億年はかかるかねぇ。火星はいい塩梅に渇いて、今がちょうど食べごろだよ」