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「あちらの方からです」
「は?」
ここは河原にある立ち食いそば屋だ。店主が指差した対岸のほうを見て私は驚いた。妻だ。間違いない。突然会いに行って驚かせるつもりが、逆に驚かされるとは思わなかった。娘にも内緒にしていたのに。きっと娘が気付いて妻に知らせたに違いない。
店主が私にメモを差し出した。それを読んで一気に涙が溢れた。妻には全てお見通しだ。思えばいつもそうだった。妻へのサプライズはいつも失敗だった。「あなたは下手くそなのよ」と笑っていた。
いつも。いつも…。
思い出すのは妻の笑顔ばかりだった。私は人目も憚らず号泣した。ひとしきり泣いた後、私は店主に言った。
「帰るよ」
「渡らないんですかい?」
「ええ。娘が待ってるんで」
屋台を出ると、三途の川の向こうで妻が手を振っていた。私は軽く手を振り返し「いってきます」と妻に背を向け歩き出す。
「いってらっしゃい」
懐かしい妻の声が耳の奥に響いた。
「は?」
ここは河原にある立ち食いそば屋だ。店主が指差した対岸のほうを見て私は驚いた。妻だ。間違いない。突然会いに行って驚かせるつもりが、逆に驚かされるとは思わなかった。娘にも内緒にしていたのに。きっと娘が気付いて妻に知らせたに違いない。
店主が私にメモを差し出した。それを読んで一気に涙が溢れた。妻には全てお見通しだ。思えばいつもそうだった。妻へのサプライズはいつも失敗だった。「あなたは下手くそなのよ」と笑っていた。
いつも。いつも…。
思い出すのは妻の笑顔ばかりだった。私は人目も憚らず号泣した。ひとしきり泣いた後、私は店主に言った。
「帰るよ」
「渡らないんですかい?」
「ええ。娘が待ってるんで」
屋台を出ると、三途の川の向こうで妻が手を振っていた。私は軽く手を振り返し「いってきます」と妻に背を向け歩き出す。
「いってらっしゃい」
懐かしい妻の声が耳の奥に響いた。
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公開:18/08/20 16:04
更新:18/12/30 09:33
更新:18/12/30 09:33
月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。
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