山のクリムト

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 祖父母と三人でデパートへ行った。版画の展示即売会をやっていて、その一枚に祖父は足を止めた。
「おい、これ」
 と祖父が言うと、祖母は「まぁ」と目を丸くした。二人はその絵を買った。

「その絵が好きなの?」
 そう尋ねると祖父はアルバムを見せてくれた。絵とそっくりな家の写真。
「昔、山奥で民宿をやってたんだ。今はもう、ダムの底だ」
 大勢でバーベキューをしたり、猟銃を構えたりしている写真。
「最後の夏、大勢で来てくれたんだ。そのとき、川向こうの木の間から望遠鏡でこっちを覗いてる奴がいてな」
「大騒ぎでしたねぇ」と祖母。
「…あいつ、これを描いてたんだな」
 祖父は絵をじっと眺めた。
 あまりに真剣なので、私は祖母に耳打ちした。
「1911年の外国の絵だよ。ねぇ、おじいちゃん大丈夫だよね?」
 祖母は、私に耳打ちをし返した。
「山の中にいるとね、そんなことはしょっちゅうあるもんなんだよ」
ホラー
公開:18/08/21 14:02
更新:18/08/22 11:43

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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